料亭予定地

愛の鳥   とりかへばや 1

2019/05/14
長編小説






「どうして?」

 足元にたまっていく髪の房が、ここまでというほどの量で、生き物のように動きながら肩からすべり落ちていく。

「ここまで切らないと駄目かな?」

「お世話になるのに、男兄弟ばかりの所にあなたみたいな女子高生、しかも海外なんてとても無理よ。このくらいはやらなくちゃ」

 横目で窓ガラスを見上げれば、淀んで暗い二月の空だった。

 病気で母を亡くして、もう三ヶ月が過ぎようとしている。天涯孤独という言葉がしっくり来ない。自分の事とはどうしても思えない。

 だってママはここにいるもの。

 すぐそばにいる。髪を撫でている。頬擦りしている。ささやいている。

 恋人が耐えず男出入りの激しかったママは、他人から、またこの叔母や厳格な叔父から見て、決して完璧な親ではなかっただろう。彼女はだが決して娘の前では彼らの姿を見せなかった。家に踏み込みたがるような男とは絶対に付き合えない、それが彼女の口癖だった。

 叔母は父親という人に連絡を取ったと言う。

「本当の事を言えば、その人は多分あんたの父親じゃない。でも候補の中では一番の金持ちで、離婚歴も三回?四回?子供は五人?六人?一人ぐらい増えたってどうってことはないようよ。父親ってことにしておきなさい」

 男装女子のメイクを叔母と二人で検索して、くすくす笑った。尽きない涙、所選ばず続く愁嘆は、明るく元気で無鉄砲だった母には似合わない。そんな姿を病魔に喰らわれつくして完全に失うことなく、少女の面影さえ残したままで、あっというまに逝ってしまった。

「男の子の格好させることは言っておいたよ。特に反対もされなかった」

「どうでもいいってこと?」

「個性尊重」

 少女は叔母が彼女を厄介払いしたがっていることをうっすら感じていた。ほとんど彼女の顔を見ようとしない叔父が消えるドアの向こう、少女の存在は叔母から叔父をさらに遠ざけている。ともかく少女は異物なのだ。二人の間に取り戻される何かがあるのかどうかもわからないが、ここは少女にとっても仮の宿以上にはならない場所だった。

 最近の流行ではないけれど、フランス、それもパリなんて響きは悪くない。へえ、いいじゃんと軽く言う友達の中の何名が、およそ一万キロメートルという遠さを理解しているだろう。







続く




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Ama Mew(天海悠)
Admin: Ama Mew(天海悠)
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