料亭予定地

愛の鳥   美しい瞳 1

2019/07/01
長編小説






 廊下を歩きながらおずおずと首を伸ばすと、出入り口に白いカードを抱えた人が数名、並んでいるのが見えた。彼女の名前を抱えているたのは、巻き毛の白人と東洋人の二人が立っている。目ざとくこちらを見つけて巻き毛の方が大きく手を振った。

 東洋人の方に彼女は目をえた。食い入るように凝視した視線を、相手は普通に受け止めた。唇の端が動いて笑顔が見え、かすかに片手を挙げた。

 あれがお兄さん?

 思うと同時に、この男装姿とあわせてすっかり腰が引けてしまう。足が震え、宙を浮いて雲を踏む。現実の存在を目の前にするのと、想像するのでは、天地がひっくり返るほどに違っていた。所詮、ディスプレイは紙の上の文字とおなじ。重みにかないようがない。

 恥ずかしい。

 馬鹿げてる、なんて子供っぽいんだろ、これでいいはずがなかった!

 血の繋がりなど本当はないものと、自分ではだましている気になっているのも、血の気が引いている原因の一つだ。

「緊張してる、ねえ、おにい?」

 友人か案内人か何かだろうかと思っていた白人の巻き毛から、流暢どころではない、間違いなくネイティブの日本語が流れ出した。

「そりゃそうか?遠かったでしょ、取り合えずよろしくね」

 スーツ姿の東洋人の青年は仕事帰りだという。若い茶色の巻き毛でハーフ顔の男の子を指差してはじめて口を利いた。

「こいつ十五歳、母親はロシア人のハーフ、おれは二十六、オヤジの子にしてはけっこう最初の方かな、三番目?たぶん。一応母親は日本人。他にもいるはずだけどまあほとんど交わらないから、そこは気にしなくていい」

 十五とすれば、わたしよりも年下だ。弟か。これが弟なのか?

 背の高さに気をとられていた。顔をしみじみ観察すると確かにとても若い。

「お世話になります」

 おびえを隠して兄の方へ頭を下げた。二人が見せる笑顔に奇妙さもとまどいもなくて、特に巻き毛君の方はひたすら屈託がなかった。

 二十六にしてはと思う。こちらの兄も大学生のように若い。彼はトランクを少女の手から取った。あれほど引きずるのに手こずった荷物は、当たり前のように彼女の手からするする離れて軽々、兄の後を付いていく。いいです自分で持ちます、と言う余地もないほど自然で、少女はなすすべなく唇を噛んだ。

 兄が言う。

「声変わりもしてないんだね」

 はっと声を飲んだ。ぎゅうっと腹に何かが降りていき、代わりに顔からは血の気が引いていく。

「十四で、遅いですかね」

 本当は十七なのにな、また下を向き声が小さくなってしまう。今度は逆流するように、胸から下は血の気が引いたままで冷たくなって手がしびれ、胸から上は湯気が出ていそうなほどに熱い。




続く




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Ama Mew(天海悠)
Admin: Ama Mew(天海悠)
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