料亭予定地

愛の鳥   レポートとカード 2

2019/06/27
長編小説






「鑑定も出来ますが、望みますか。キットを送りますよ」

 国際電話の受話器の先にいる相手は一瞬、黙った。弟とやらとはパソコン越しに文字のやりとりをしたが、電話で直接、話を持ってきたのはこの伯母と名乗る女の方だった。

『正直なことを言うとね。妹のことは私もよくわかんないの。私も深入りしたくないから、あまり詳しく聞かなかったし』

 居心地の悪い沈黙が過ぎた後に、子供のおばとやらは、機関銃のようにまくしたてはじめた。

『だけど、とにかく苗字は同じだよ。すごく珍しい苗字だよね。妹がそちらの会社に勤めてたのも知ってるし。偶然なんてありえないでしょ。関係あるのは間違いない、それはそっちもわかってるんじゃないの。脅かしたって無理ですから』

 吐き捨てるように叩きつけられた。

『してもらってかまわないです、DNA鑑定。そちらさんが望んでるんでしょ』



「いい、いい、そんなのしなくて」

 父親は手を振った。

──そちらにも面倒を見る義務があるんじゃありません?

──それは、お金ってことですか

──養育費も払わずにここまで来たんだから、図々しくはないでしょう。ごめんねこっち余裕がないの。金銭的でもあるけど、時間的にもなんだ。あの子、そっちに行かせます。

 言い切られた。

 そして父親も鑑定は必要ないと言下に言う。

 彼は口をつぐんで妙な顔をした。父親は頭から興味を持たないだろうと思い込んでいた。

 詐欺師なのか、ある程度根拠はあるのかどうでもいい気はするが、向こうもさかのぼって戸籍謄本を取って詳細に調べればわかるはずだ。

「この子の伯母さんてのは、血縁関係をあまりよく知らないんですね」

 なぜ、おやじの子だなんて言ってるんだろう?

 DNA鑑定してまで、追い払ったことも一度だけある。

「適当なこと言ってるけど、どうします」

 兄弟の話をする時はいつでも、儀礼的な口をいた。

「まとまったお金を渡す?そうするときりがないようだが」

「来させなさいよ」

 本気かよ。彼は胸のうちでつぶやいた。

「学校だってあるし、まだ子供ですよ、中学生っぽいが」

 転校手続きにしろ、ビザにしろ、この伯母が頼れなくて書類の受け渡しが望めない以上、かなり面倒な手続きになることは想像できた。

「見ますか?」

 調査書をソファの前の机に置いた。父親は下を向いたまま何かを考えていて手に取らない。もう一度手を伸ばそうとすると、だしぬけに聞いてきた。

「お前、これの中身は見たの?」

「ぱらぱらっとは。まだあまりちゃんと読んではいない」

 この子の実の父親は、もう既に死んでいる。

 父の皺の寄った手がファイルの上に置かれるのを見た。 

「わたしが持っていてもいい?」

「どうぞ」

 とりあえず、冬休みに来させる。それしかない。

 部屋を出る前にちらと後ろを振り向くと、父親はまだ開きもせずにただ座っていた。目だけがぎょろりと開いて食い入るように虚空を眺めている。光る眼窩がんかを彼は眉をひそめて見守り、それからそっと扉を閉じた。




続く




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Ama Mew(天海悠)
Admin: Ama Mew(天海悠)
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