料亭予定地

愛の鳥   レポートとカード 1

2019/06/23
長編小説






 もう少し飲もうと引き止める友人たちを振り払って彼は一足先に家に帰った。封筒と葉書が届いていた。

 日本からだ。しっかりした緩衝材入りのA4封筒の暑さ、宛名を詳細に見るより先に内容を察して破ろうとする動きを止めた。

 新しい弟の調査書だろう。

 デジタルデータでいいと言うのに、社内ルールだとか個人情報だからって、こんな分厚い資料を海外に送る方が無用心だと思わないのか。彼はバッグと新聞と葉書を脇に挟んだまま、刀の形をしたペーパーナイフを突っ込んだ。きっちりと隅々に到るまで糊付けされているから、結局、荷物を降ろしてハサミを使う。刀でも歯が立たない日本の便りか。

 一人笑いしながら、かまわずにザキザキ刃を入れた。

 半透明のクリアファイルを出す所で面倒になって、今度は葉書を手に取った。

 日本にいる恋人の名前があった。先日、携帯越しにおれを待たなくていいよと送ってから、既読はついても返事がない。

 タイムラグかな。

 早く帰って来て欲しい。テロもあったしとても心配。あなたのことばかり考えてます…。

 切々と、待つことの喜びと彼への想いを小さくて几帳面な字が綴る。小さな点々が飛び立って部屋を舞うのがわずらわしい。

 手を上げて小さく払う真似をした。

 あなたの彼女デートしてたらしいよ、遠いとやっぱり色々と難しいよね。早く帰ってきた方がいいんじゃないの。

 たくさんの雑音が放っておいても勝手に入ってくる。そして彼女がデートしたという男が前から彼女を狙っていることを彼は知っている。狙っている、のであって、好きかどうかは知らない。どうでもいい。

 さすがにゴミ箱には捨てがたく、机にぽいと置いた。

 どっちもどっちの微妙で重要な便りだなと考える。

 重要度で言えば、フラグ2ぐらいか。

 クリアファイルからきっちり本型に綴られた書類を開いて、気のない動作でいいかげんにぱらぱらめくり、また机に投げ出した。思い直したようにファイル立てにはさんで仕舞い込んだ。

 知られていると知らない相手の秘密を握るのはいつだって楽しいもので、弱みを握れば優位に立てる。

 弱みを切り札として使わないまでも、優位にあることが余裕を産むから、相手を油断させるどんな優しい嘘だって付くことができるだろう。

 ここにあるというだけで、知りたくなったらいつでも引き出せばいいと彼は考えた。

 今は気が乗らない。

 子供に対しては何の恨みもないが、電話を通して聞いた、頭から押さえつけるような話し方をする伯母とやら、いかにもな中年女の話しぶりが気に入らなかった。

 子供を押し付ける気満々の下心が透けて見えた。反感を抱いていたか、腹を立てていたのかもしれない。




続く




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Ama Mew(天海悠)
Admin: Ama Mew(天海悠)
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